■17歳で旅立った娘への想い

卓球のユニフォームのお形見ベア
群馬県伊勢崎市の斎藤さん夫婦が長女を失ったのは2008年4月のことでした。部活の卓球で県の代表にも選ばれたことがある長女は、特別練習からの帰り道に交通事故に遭い、17歳の若い命を奪われました。
「自分の中では時間が止まったまま」と母は心境を語ります。
お形見ベアのことは知人に聞き、通っていた高校の制服と、卓球の大事な試合では必ず着た「勝負服」のユニフォームで作りました。
「卓球を一生懸命頑張っていた姿を残したい」
出来上がったベアを見た瞬間、娘だと思ったそうです。
「ベアの存在自体が、娘がいてくれた証し。いつも一緒にいる感じです」
父も、「本当は、制服もユニフォームも見たくても見られない。でもベアがいることで、見られるし、卓球や勉強や友達との情景を思い出すことができる」と話します。
■夫のベアと交わす毎日の会話

軽井沢ベアーズの島邑さんは、2024年、不慮の事故で右目を失い、左目も視力低下が進んでいて、将来に不安を感じています。
普段、ベアを渡したあと、依頼者に再び会うことはあまりありませんが、仕事が続けられなくなる前にどうしても会いたい人がいました。
早くに亡くした自分の母親がなんとなく重なるという、新潟県十日町市の山本さん(女性76歳)です。
山本さんは10年ほど前に、父、そして夫を相次いで亡くしました。
「父の時はすごく泣きました。主人の時は悲しすぎて涙も出ませんでした。あんまり悲しいと涙って出ないんですね」
お形見ベアのことはテレビで偶然知り、「自分にぴったり」と思って、依頼したといいます。
雪のある日、新潟県十日町市の山本さんを訪ねた島邑さん。4年ぶりの再会です。
元気に暮らす様子に安堵する島邑さんに、山本さんはベアとの日常を話します。それはまるで夫がそこにいるかのようです。
「ベアはお父さん(ご主人)の代わりだから、普段はソファにいて、ご飯のときは食卓に行って、一緒に食べて。この年になると医者通いも仕事の一つ。そういう時も、じゃあ行ってくるねとか言ってね。帰ってきて、ただいま、また明日も元気でやろうねとかって、話しかけています」
山本さんの家を後にした島邑さんは、「やっと会いたい人に会えた。クマちゃんと今も仲良く暮らしていただいている。そのことに私はパワーを頂いて、また頑張っていけそうです」と話します。