■「年齢には勝てない、それが現実」
ミラノ・コルティナ五輪のノーマルヒルでは、シーズンベスト級のジャンプを見せました。
しかし、雪が深く溶けてしまったクロスカントリーのコースでは、通常24分程度で走れる距離に29分もかかるほどのコンディションとなり、思うような滑りができませんでした。
一方の団体スプリントでは、悪コンディションが逆に日本チームに味方し、メダル争いに絡む展開となるなど、最後まで印象的な戦いを繰り広げました。
大会を経て、引退の意思はより強固なものに。「大会を経てより思いましたね。もう終わりだなって」と渡部は言います。
「悔しいけど、それがやっぱりスポーツの現実というか、やっぱり年齢には勝てない」という言葉には、20年間世界の頂点で戦い続けてきた渡部の、静かな覚悟が込められていました。
■「道半ばで諦める」その言葉の真意
引退発表の際、渡部が口にした「道半ばで諦める」という言葉は、多くの人の心に引っかかったはずです。
オリンピックの金メダルが取れなかったことへの悔恨なのか、あるいは他に何か取り切れていないものがあるのか。
しかし、その言葉の真意は、勝ち負けとはまったく別の次元にありました。
渡部はこの競技を「コンバイン道」と表現してきました。
柔道や剣道のように「道」のつくものとして捉え、結果よりも技の追求、スキー技術そのものの探求として向き合ってきたのだといいます。
「基本的には死ぬまで続くもの、体が動く限りは。だからメダルを取っているとか取っていないとかではない諦めなんです」と渡部は語ります。
その道を歩む過程で気づいたことがあります。
「真理を追求したいけど、人間一人一人個性があって違うから普遍的なものがない。そうなるとやっぱりこの道を追求するには、日常というものを全て諦めて、本当にその道を死ぬまで追求していかないと、この真理というものにはたどり着けないんじゃないかなと気づいた」。
だから「道半ばで諦める」。あるいは「立ち止まる」という言葉を選んだのだと、渡部は静かに語りました。
※この記事は、2026年5月10日にNBS長野放送で放送した「北野建設Presents 雪上に刻んだ軌跡 キング・オブ・スキー 渡部暁斗」をもとに構成した内容です。(全3回の記事その1)

