
渡部暁斗(ノルディック複合・日本代表 2026年3月引退)
6大会連続オリンピック出場、3大会連続メダル獲得、そしてW杯個人総合優勝。ノルディック複合のレジェンド渡部暁斗が引退後初めて競技人生の全てを語りました。20年間、世界の頂点で戦い続けた渡部が口にした「清々しい」という言葉。そして引退を決断するに至った知られざる経緯とは。
■「清々しい気持ち」引退後の日常

インタビューに答える渡部(2026年3月)
現役引退からしばらく経った今、渡部は「すごく清々しい気持ちがある」と語ります。
長年にわたって染みついた競技者としての習慣は、そう簡単には消えません。
「朝起きてトレーニングに行きそうになる自分がある日があって、あ、今日行かなくていいんだという、そのあたりでそういう気持ちを感じると、あ、これが引退なんだなっていうのをちょっとずつ感じている」と、彼は静かに話します。
現役時代、1年の半分以上を海外で過ごしてきた渡部にとって、日本での日常は新鮮な発見に満ちています。
「子どもたちと過ごす時間が、今まではなかった」と率直に明かし、子どもの成長を見守る喜びをかみしめている様子でした。
競技一辺倒だった生活から、日常の豊かさへと目が向き始めています。
■求めているのは、トップオブトップ
2026年2月に行われたミラノ・コルティナ五輪が、渡部にとって現役最後の舞台となりました。
大会に出発する前の時点で、すでに「最後にしようと決めていた」といいます。その決断は大会1年前の春に固まり、2025年10月には正式に引退を発表しました。
外からは、世界のトップ10圏内で十分に戦える力を持っているように映っていました。
しかし渡部本人の感覚は違ったのです。
「ワールドカップとかオリンピックに残り続けることはできると思う。でもやっぱり求めているものが勝利だったりとか、トップオブトップの戦いをしたいっていうのが昔から気持ちとしてある。そこをもう求められないという自分は、やっぱり悔しいけど、ここで終わりだなと思った」と、静かに、でも揺るぎない言葉で語りました。
「自分のベストを知っているからこそ、それとのギャップが結構つらかったりとか、時間も若い頃ほど成長速度も遅くなる。どんどんその厳しさが増してくる感じもあった」。
ベストを知る者だけが感じることのできる、その重さと葛藤が言葉の端々ににじんでいました。

