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脱サラしてゼロからスタート “水平放任”で甘い「フルーツトマト」生産 試行錯誤の日々…販路拡大目指す

特集は味だけでなく栽培方法も果物のような「フルーツトマト」。脱サラして「水平放任」という珍しい栽培方法にゼロから取り組み、会社を立ち上げるまでに至った長野県箕輪町の男性を取材した。

木の幹のように太い茎。見上げると葉は横に広がり、たくさんのトマトがなっている。糖度が高い、いわゆる「フルーツトマト」だ。

箕輪町にある「信州トマト工房」のハウス。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「一番の食べごろはヘタの辺りまで真っ赤。そういうのが一番おいしい」

代表の唐沢金実さん(69)は26年前から、このトマト栽培に取り組んでいる。

トマト栽培はひもや支柱で苗を誘引する「縦型」が主流。

一方、こちらはブドウのように棚を作って茎や葉を広げさせる「水平放任」という栽培方法だ。

そうすると―。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「(水平放任は)葉っぱの面積が縦栽培の面積より広くなる。そうすると光合成をする量が多くなるので、実にたくさんの糖がたまる」

甘くする工夫は他にも。土を使わない、水と液体肥料の溶液で育てる「水耕栽培」。甘みが増すよう、溶液の濃度を調整して、余分な水を吸わせないようにしている。

一般的なトマトの糖度は4度から6度ほどだが、ここのトマトは「9.9度」だった。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「一般的なイチゴレベルだと思ってもらえれば。(最高でどれくらい?)12度くらいですよ」

(記者リポート)
「甘いですねー、普通のトマトと比べて一回りくらい小ぶりなんですが、凝縮されたうま味があって、とてもおいしいです」

血流改善などに効果があるとされる「リコピン」も多く含まれているということだ。

甘いトマトで成功した唐沢さん。元々はサラリーマンでゼロからのスタートだった。

唐沢さんはメーカー勤務だったが酪農をしていた父親が亡くなり、農業を始めることに。42歳のときだった。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「(酪農で使っていた)この土地を生かす方法はないかということで農業に入りました。(当時)トマトだけが、右肩上がりで生産量が増えているというのを見まして、これだなと」

ある日、雑誌を読んでいるとフルーツトマトの記事が目にとまった。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「フルーツトマトって何ぞやと。(都内の)デパ地下まで買いに行きまして、あずさの中で食べたらとんでもない味がする」

味に衝撃を覚え「何とか自分も」と、唐沢さんは書店に通い本を読みあさった。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「(本に)『水平放任栽培』が高糖度のトマトができると書いてありましたので、何とかそれを導入できないかと。設備はかかるんだけど、おいしいトマトをそれで栽培していきたいなと」

1998年、設備を整え、水平放任栽培に取り組む。

しかし、険しい道のりが続いた。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「全く未経験でトマト栽培に入りましたので病気も出て、どうしたらいいんだろうという状況が何年か続いたこともありまして(設備費などの)お金の返済に夜も寝られないときが何年かありました。這い上がらないといけないという気持ちでいましたので、図書館に通う、信大の先生の所に聞きに行く、県外の先進の農家に聞きに行って根掘り葉掘り聞いたりということをよくやりましたね」

生産が軌道に乗ったのは7年目くらいから。

2018年に株式会社に移行し今は社員7人とともに、年間12トンほどを生産。「ルージュ・フルーツ」という名で、南信地域のスーパーや直売所の他、インターネットで販売している。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「トップを走っていこうとするためには、試行錯誤してみる。リスク覚悟でやってみるということが大事かなと」

町内にあるメキシコ料理の店「ゆとろぎroom5884」。特別に唐沢さんのトマトを使ってもらった。

トマトをミキサーにかけ、それをひき肉やミックスビーンズを炒めたものに加え、チーズなどと一緒にトルティーヤにくるみ、焼く。

最後にトマトやアボカドをあえた「ワカモーレ」を添えれば、定番のブリトーの完成だ。

(記者リポート)
「トマトのコクとみそのコクの感じがすごくマッチしています。食べ応えもあって非常においしいです」

ゆとろぎroom5884・小林圭太郎さん:
「酸味が若干弱い分、糖度が増して甘さがある。調理で使っても味を引き出せるトマトでしたね。サラダとかにも使えるかなと、じゃんじゃん使っていきたいなと思いました」

現在は週におよそ400キロを収穫。夏のイメージがあるが、唐沢さんのトマトが最もおいしくなるのは5月の連休ごろだそう。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「トマトは南米出身の植物ですので、2000メートルの高地でありながら、赤道直下、朝夕、非常に涼しい。長野県もしくは日本に置き換えると、3月から6月の梅雨入ったくらいまでが一番(栽培の)気象に適している。味からいくと、トマトっていうのは春のもの」

水平放任栽培は収穫量が少なく、設備にも費用がかかり、栽培している農家は全国でも20軒ほど。

決して楽な経営ではないが、唐沢さんはもっと魅力を広めようと、北信や中信に販路を拡大する考えだ。

信州トマト工房・唐沢金実さん:
「今後もここの地域だけじゃなくて長野県全体で広げていきたいなと。健康のため、美容のため、ぜひうちのトマトを食べていただければうれしいなと思います」
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