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200年以上の歴史…宿場町の酒蔵再生 仕込みは杜氏たった一人で 歴史の重み感じながら奮闘中

酒蔵の再生です。11年前、江戸時代から続く歴史に幕を下ろした宿場町の酒蔵が、2021年に生まれ変わりました。仕込みを担っているのは杜氏の男性たった一人。歴史の重みを背負いながら酒造りに励んでいます。

湯気を上げる「甑(こしき)」。中で蒸されていたのは「酒米」です。ここは長野県塩尻市の奈良井宿で営業していた酒蔵の一部を改装して2021年、新たに開業した「スギノモリ・ブルワリー」です。杜氏の入江将之さん(37)。他に蔵人はおらず、入江さんがたった一人で酒造りを担っています。

スギノモリ・ブルワリー 杜氏・入江将之さん(37):
「全部やらないといけないので、そういう大変さはありますね。自分の段取りでできるので、そこは良いことの一つかもしれないですけど」

蒸した酒米はおよそ20キロ。これを「麹室(こうじむろ)」へ。麹菌を振りかけ、よく混ぜます。これが「米麹」となります。

入江将之さん:
「どんな麹を作るかが一番大事だと思いますね」

室の中は、菌が活発になるように32度に設定してあります。外は氷点下ですが、すぐに汗がにじみます。

入江将之さん:
「(寒いところと暑いところ行き来、大変?)ほんとそうですね、ここまで寒暖差あるところは初めてなので。ここ出たら寒いので『もん絶級』の寒さなので」

ちょっと寒がりな入江さんは福岡県の出身。佐賀や京都の酒蔵で経験を積みました。信州に来たのは2年半前です。

入江将之さん:
「前職の杜氏が、ここでの『再興』の話をいただいたときに、現場で誰か働く人がいないかというところで、僕を推薦していただいた」

奈良井宿のシンボル的な存在だった「杉の森酒造」。江戸時代の1793年に創業し200年以上の歴史がありましたが、後継者がおらず2012年に事業を停止しました。

古民家の再生などを手掛ける会社から「酒蔵再生」を任され、入江さんは京都から移住。仲間と共に「スギノモリ・ブルワリー」をスタートさせました。

入江将之さん:
「新しいことができる、年齢的にチャンスをもらえる数が少なくなってきた中で、話をいただいたので(挑戦した)。こういう場所にある酒蔵で働いている人っていうのは、たぶん日本で数えるくらいだと思っていますね。素晴らしい場所で酒造りができているなと」

入江さんと蔵を再生させた一人が、事務を取り仕切る「番頭」の西川正貴さん(43)。前の酒蔵から一緒の言わば相棒です。

スギノモリ・ブルワリー 番頭・西川正貴さん:
「(入江さんは)真面目なんじゃないですか。真面目すぎて、ちょっと落ち着けってときもあったりしますけど(笑)」

スギノモリ・ブルワリーは少量生産。地元の材料にこだわってます。酒米はアルプスの雪解け水で育てられた安曇野産。水は、宿場の「水場」から引き込まれている湧き水です。

入江将之さん:
「水に関してはすごく柔らかさを感じますし、すごく恩恵を感じていますし、さらに大事にしていきたいなって」

この日、2回目の米を蒸す作業。発酵を促す酵母、麹、水が入ったタンクに蒸した米を加え、よくかき混ぜます。これが「醪(もろみ)」です。

使っている「櫂棒(かいぼう)」は杉の森酒造の時からあったもの。

入江将之さん:
「どうにかしてここの歴史というか、残す方法として道具があるなら使っていくという思いはありますね」

醪の仕込みを繰り返し発酵期間が終わったら、搾ってろ過・加熱すると日本酒になります。

入江将之さん:
「(酒になるまで)ここからだと30日ちょっとくらい、33~34日くらいかかります。あっという間ですけどね」

銘柄は、その名もずばり「narai」。(税込み5500円・四合瓶)

瓶にデザインされたマークは「杉の森酒造」の時代から建物の壁面に取り付けられている木工細工がモチーフになっています。

入江将之さん:
「ここを建てた大工さんが遊びで作ったものだったらしくて、それが魅力的だったので」

かつての酒蔵の半分は宿泊施設になっていて、バーで「ブルワリー」の酒を飲むことができます。

特別に試飲させてもらう―。

(記者リポート)
「非常にまろやかな口当たりで、丸みをおびた甘さがほんのりと広がります。後味はスッキリしていて、とても飲みやすいです」

生まれ変わった宿場の酒蔵。入江さんは確かな味の酒を世に送り出し、宿場も盛り立てていければと話します。

入江将之さん:
「『narai』という銘柄をしっかりさせていくこと、それが奈良井のためになると思いますね。酒としては、しっかりみんなに知ってもらって、気に入ってもらえる人が一人でも増えればなと思います」
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