「生ハム」は輸入のイメージが強いですが、近年、長野県内で生ハムを作る工房が増えていて、「信州産」の評価が高まっています。その背景と一流シェフも太鼓判を押す品質の高さに迫ります。
軽井沢町のフレンチレストラン「TOEDA」。オーナーシェフの戸枝忠孝さんがスライスしているのは「生ハム」です。「原木」と呼ばれる大きな豚肉から薄く切り出し、前菜などに使っています。
戸枝さんはフレンチの世界大会にも出場する一流シェフ。食材は信州産にこだわっています。「生ハム」ももちろん、信州産。仕入れるようになって7年になります。
フレンチレストラン「TOEDA」・戸枝忠孝シェフ:
「料理で使う前に味見もしますし、止まらなくなりますよね。一生懸命、しかもいい品質のものを作られているので、使わせていただかないといけないとは思いますね」
一流シェフが太鼓判を押す生ハムは標高およそ1500メートル、長和町の姫木平で作られています。工房の名は「Jambon de Himeki(ジャンボン・ド・ヒメキ)」。藤原伸彦さん(51)が2015年に立ち上げました。
豚肉に塗っているのは、ミネラル分が多いオーストラリア産の「湖塩」。藤原さんは3種類の県産豚肉で「生ハム」を作っています。(信州黒豚・信州太郎ポーク・千代幻豚)
工房はかつて藤原さんの父親が営んでいたペンションで、子どもの頃に一家で大阪から移り、藤原さんは姫木平で成長しました。
その後、フレンチのシェフとなり東京や大阪で腕を振るったあと、2010年に諏訪市のレストランへ。生ハムを手掛けるようになったのは、この頃です。
ジャンボン・ド・ヒメキ・藤原伸彦さん:
「(諏訪のレストランで)豚肉料理の商品開発の一環として、生ハムを作れないかということになり、まず豚もも肉を2本塩漬けして作り始めた」
生ハムは好評で、藤原さんはその後、「職人」として独立。かつてのペンションに工房を構えたのは、姫木平が生ハム作りに適しているという「読み」があったからです。
ジャンボン・ド・ヒメキ・藤原伸彦さん:
「まずは標高ですね。標高1500メートルの高原地帯。湿度が高いときもありますけど、低いときは徹底的に低い、寒さもマイナス20度近くなる。一番シンプルに、塩漬けしてそのまま熟成させていくという意味では、非常に適しているのでは」
藤原さんの「読み」は当たりました。塩漬けにした豚肉に、藤原さんはしょうゆ造りに使う「麹菌」を振りかけ、熟成させます。麹菌の働きで雑菌の繁殖を防ぎつつ、うま味を最大限に引き出すのです。
熟成は2年以上。標高が高く、年間通じて冷涼な姫木平は腐敗の心配が少なく熟成に向いていて、戸枝シェフのような料理人からも信頼される品質を維持しています。
生ハムの魅力を広めようと、仕込み体験の「ワークショップ」も開催しています。試食した参加者はー。
参加者:
「ほどよい塩味と、豚肉の脂身のおいしさがダイレクトに伝わっておいしい。この気候が生み出すおいしさなのかな」
冬は仕込みの時期。藤原さんは2023年2月までフル回転です。この忙しさには、人気だけではない「理由」があります。2022年1月、一大産地のイタリアで豚熱が発生。輸入がストップしました。輸入生ハムの7割がイタリア産だったことから、「代替品」として国産の「生ハム」の需要が高まっているのです。中でも注目されているのが「信州産」。近年、工房が増えていて、少なくとも10軒はあるということです。その背景は…。
ジャンボン・ド・ヒメキ・藤原伸彦さん:
「イタリアでもアルプスの方、ピレネー山脈界隈のハムを作る環境には結構似ている。長野県はかなり気温が下がりますし、湿度が低い、これが大きな要因では」
長野市の山あいにある小田切地区。ここにも生ハムの工房があります。2020年から稼働している、生ハムブランド「ハモン掬月」の加工施設です。
酒井慎平さん:
「26度以下の環境を保てるようになっているので、しっかりとここで長い期間熟成されていく」
手がけているのは、長野市出身の酒井慎平さん(33)。東京で飲食業を相手にした広告代理店に勤めていましたが、生ハムに着目し、国内外の工房で修業した後、会社を設立しました。
小田切の地を選んだのはやはり標高が高く、比較的冷涼な気候で、犀川から吹く風がイタリアの産地と似ていると感じたからでした。
酒井慎平さん:
「山々の空気は特にヨーロッパの風・環境と非常に似ているところがあるので、そういった意味でも生ハム作りに適している」
この日は、新人スタッフの研修を兼ねた仕込み。
酒井慎平さん:
「生ハム自体が塩だけを使って長期熟成、発酵させている。非常に信州の発酵熟成文化と似ている部分がある」
丁寧に骨などを取り除き、オーストラリアの湖塩でコーティングします。
酒井慎平さん:
「特に赤身から塩分が吸われていくので、赤身を重点的に、細かい隙間などを含めてもみ込んでください」
15カ月以上熟成させると完成します。
記者が試食―。
(記者リポート)
「口の中に入れた瞬間にふわっと、とろけるような食感です。また脂の甘みと肉のうま味が口の中いっぱいに広がって、とってもおいしいです」
酒井慎平さん:
「生ハム自体が長い時間とともにおいしさを育まれている食品なので、そういった時間に思いをはせながら、楽しんでもらえばいいのかなと思います」
ヨーロッパの産地に似た環境の中で生ハム作りに励む職人たち。量でも質でも、ますます「信州産」の評価が高まりそうです。
ジャンボン・ド・ヒメキ・藤原伸彦さん:
「まだまだ始まったばかりですし、発展途上ですし、海外の名だたる生産地は何千年の歴史があるが、そこに肩を並べるのは遠い将来ではないと思う」
軽井沢町のフレンチレストラン「TOEDA」。オーナーシェフの戸枝忠孝さんがスライスしているのは「生ハム」です。「原木」と呼ばれる大きな豚肉から薄く切り出し、前菜などに使っています。
戸枝さんはフレンチの世界大会にも出場する一流シェフ。食材は信州産にこだわっています。「生ハム」ももちろん、信州産。仕入れるようになって7年になります。
フレンチレストラン「TOEDA」・戸枝忠孝シェフ:
「料理で使う前に味見もしますし、止まらなくなりますよね。一生懸命、しかもいい品質のものを作られているので、使わせていただかないといけないとは思いますね」
一流シェフが太鼓判を押す生ハムは標高およそ1500メートル、長和町の姫木平で作られています。工房の名は「Jambon de Himeki(ジャンボン・ド・ヒメキ)」。藤原伸彦さん(51)が2015年に立ち上げました。
豚肉に塗っているのは、ミネラル分が多いオーストラリア産の「湖塩」。藤原さんは3種類の県産豚肉で「生ハム」を作っています。(信州黒豚・信州太郎ポーク・千代幻豚)
工房はかつて藤原さんの父親が営んでいたペンションで、子どもの頃に一家で大阪から移り、藤原さんは姫木平で成長しました。
その後、フレンチのシェフとなり東京や大阪で腕を振るったあと、2010年に諏訪市のレストランへ。生ハムを手掛けるようになったのは、この頃です。
ジャンボン・ド・ヒメキ・藤原伸彦さん:
「(諏訪のレストランで)豚肉料理の商品開発の一環として、生ハムを作れないかということになり、まず豚もも肉を2本塩漬けして作り始めた」
生ハムは好評で、藤原さんはその後、「職人」として独立。かつてのペンションに工房を構えたのは、姫木平が生ハム作りに適しているという「読み」があったからです。
ジャンボン・ド・ヒメキ・藤原伸彦さん:
「まずは標高ですね。標高1500メートルの高原地帯。湿度が高いときもありますけど、低いときは徹底的に低い、寒さもマイナス20度近くなる。一番シンプルに、塩漬けしてそのまま熟成させていくという意味では、非常に適しているのでは」
藤原さんの「読み」は当たりました。塩漬けにした豚肉に、藤原さんはしょうゆ造りに使う「麹菌」を振りかけ、熟成させます。麹菌の働きで雑菌の繁殖を防ぎつつ、うま味を最大限に引き出すのです。
熟成は2年以上。標高が高く、年間通じて冷涼な姫木平は腐敗の心配が少なく熟成に向いていて、戸枝シェフのような料理人からも信頼される品質を維持しています。
生ハムの魅力を広めようと、仕込み体験の「ワークショップ」も開催しています。試食した参加者はー。
参加者:
「ほどよい塩味と、豚肉の脂身のおいしさがダイレクトに伝わっておいしい。この気候が生み出すおいしさなのかな」
冬は仕込みの時期。藤原さんは2023年2月までフル回転です。この忙しさには、人気だけではない「理由」があります。2022年1月、一大産地のイタリアで豚熱が発生。輸入がストップしました。輸入生ハムの7割がイタリア産だったことから、「代替品」として国産の「生ハム」の需要が高まっているのです。中でも注目されているのが「信州産」。近年、工房が増えていて、少なくとも10軒はあるということです。その背景は…。
ジャンボン・ド・ヒメキ・藤原伸彦さん:
「イタリアでもアルプスの方、ピレネー山脈界隈のハムを作る環境には結構似ている。長野県はかなり気温が下がりますし、湿度が低い、これが大きな要因では」
長野市の山あいにある小田切地区。ここにも生ハムの工房があります。2020年から稼働している、生ハムブランド「ハモン掬月」の加工施設です。
酒井慎平さん:
「26度以下の環境を保てるようになっているので、しっかりとここで長い期間熟成されていく」
手がけているのは、長野市出身の酒井慎平さん(33)。東京で飲食業を相手にした広告代理店に勤めていましたが、生ハムに着目し、国内外の工房で修業した後、会社を設立しました。
小田切の地を選んだのはやはり標高が高く、比較的冷涼な気候で、犀川から吹く風がイタリアの産地と似ていると感じたからでした。
酒井慎平さん:
「山々の空気は特にヨーロッパの風・環境と非常に似ているところがあるので、そういった意味でも生ハム作りに適している」
この日は、新人スタッフの研修を兼ねた仕込み。
酒井慎平さん:
「生ハム自体が塩だけを使って長期熟成、発酵させている。非常に信州の発酵熟成文化と似ている部分がある」
丁寧に骨などを取り除き、オーストラリアの湖塩でコーティングします。
酒井慎平さん:
「特に赤身から塩分が吸われていくので、赤身を重点的に、細かい隙間などを含めてもみ込んでください」
15カ月以上熟成させると完成します。
記者が試食―。
(記者リポート)
「口の中に入れた瞬間にふわっと、とろけるような食感です。また脂の甘みと肉のうま味が口の中いっぱいに広がって、とってもおいしいです」
酒井慎平さん:
「生ハム自体が長い時間とともにおいしさを育まれている食品なので、そういった時間に思いをはせながら、楽しんでもらえばいいのかなと思います」
ヨーロッパの産地に似た環境の中で生ハム作りに励む職人たち。量でも質でも、ますます「信州産」の評価が高まりそうです。
ジャンボン・ド・ヒメキ・藤原伸彦さん:
「まだまだ始まったばかりですし、発展途上ですし、海外の名だたる生産地は何千年の歴史があるが、そこに肩を並べるのは遠い将来ではないと思う」