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殺処分免れた保護犬「しいたけ」の物語 ”かみつき犬”から心の傷癒し…小さな命救ったのは

特集は「かみつき犬」と呼ばれながら、殺処分を免れた1匹の保護犬の物語です。小さな命はどのようにして救われたのか…。動物愛護を考えます。

オカリナ奏者の小林洋子さん。手にするのは「しいたけオカリナ」と名付けた特注品です。小林さんには、この特別なオカリナの音色にのせて伝えたいメッセージがあります。

長野県佐久市・小林さんの自宅―

「しいたけ」を引き取った・小林洋子さん:
「手をしばらく出さないでいてもらえれば。においはかぎに行きますけど」

小林さんの愛犬「しいたけ太郎」。かわいらしい顔をしていますが、接し方には注意が必要です。

「しいたけ」を引き取った・小林洋子さん:
「もう今は(私が)どこ触っても怒らないけど、来たときは触るだけでかまれて」

「しいたけ」は2年前、元の飼い主が「かみつくから」と群馬県の保健所に持ち込んだ犬でした。なぜ、かみつくようになったのか、経緯は不明です。ただ、長く問題のある飼育環境に置かれていたのは明らかでした。

ドッグリライフ群馬・新井礼子代表:
「毛並みがものすごく悪くて、耳もあかぎれでひび割れていた。眉間にしわが寄っているような、怖がりでオドオドしていて…」

当時の様子を語るのは群馬を拠点に活動し、県内の譲渡会にも参加する新井礼子さんです。10歳の「老犬」で、さらに心の傷が原因とみられる「かみ癖」。通常の譲渡対象にはならないとみた新井さんたちは、すぐに保健所から引き取りました。

ドッグリライフ群馬・新井礼子代表:
「(譲渡対象にならない犬は)そこから引き出さない限り殺処分になってしまう。死なせたくなかった」

「ドッグリライフ群馬」ブログより:
「ふせ、そう、じょうず」

早速、トレーナーのもとで人と暮らすための訓練が始まりました。

「ドッグリライフ群馬」ブログより:
「はいオッケー、じょうず!」

毛の色にちなんで「しいたけ」と名づけたのはこの頃です。「しいたけ」は順調に訓練をこなしましたが心の傷は深く「かみ癖」は完全には消えませんでした。

それでも半年後、大の犬好きで飼育経験も豊富な小林さんが里親になってくれました。引き取りの打診を2回、断ったという小林さんでしたが…

「しいたけ」を引き取った・小林洋子さん:
「3回目(の打診)では、訓練している動画を見せられちゃったんですよ。けなげに一生懸命している姿に、留守番が多いかもしれないけど、家に来たらいいかなと思って」

しかし…

「しいたけ」を引き取った・小林洋子さん:
「(引き取った)次の日、電話しながら水を替えようと思ったら…ガブッ。もうショックで…どうしてって…」

折しもコロナ禍となり、じっくり向き合う時間ができた小林さん。絶対に手をあげず、一つ一つダメなことを教え、うまくできたら褒めることを根気よく繰り返しました。

「しいたけ」を引き取った・小林洋子さん:
「手をかまれたら引っ込めるだけじゃなく怒って、もう一度出してかまなくなるところまでやる。手放そうとは1回も思わなかった。これ以上かわいそうな思いさせちゃいけないと。どんな寂しい思いをして、誰からも声かけられず1日が終わって…。その10年分を取り返してあげたいと思って」

家族になって1年半。「しいたけ」にようやく穏やかな日々が訪れています。心の傷は消え去っていませんが、強い信頼関係ができました。

そんな中、作ったのが「しいたけ」をモチーフにしたオカリナ。先端の切り込みは、割れた「しいたけ」の耳を模しています。

「しいたけ」を引き取った・小林洋子さん:
「『しいたけ2号』がいっぱいいるよ(と聞いて)。その子たちを飼ってあげたいけど自分1人では無理だから、何か支援ができないかと」

小林さんは特注で「しいたけオカリナ」を100本作って販売。売り上げの一部を保護団体に寄付しています。

「しいたけ」を引き取った・小林洋子さん:
「(しいたけオカリナは)もちろん優しい音だけどしっかりした音が出るように、『しいたけ』の根性みたいに作りました」

コロナ禍で減っていた演奏会がようやく増え始め、9月は、動物との共生を学ぶ講演会に招かれ演奏しました。音色にのせたのは、これ以上「しいたけ」のような犬を増やさないでというメッセージ。

聴いた人:
「感情が高ぶってきます。涙が出てきそう」
「映像が浮かびます。平和な光景の映像が…」

後を絶たない飼育放棄や多頭飼育崩壊。ペットがどう命を全うするかは飼い主次第です。

ドッグリライフ群馬・新井礼子代表:
「最近は、高齢者による持ち込みも増え、多頭飼育崩壊も。(私たちは)『この子は誰のもとに行ったら幸せになる?』といつも考えている。これから犬を飼いたいと思っている人は、必ず最後まで寿命を全うするまで飼ってほしい。自分に万が一のことがあったとき、(誰かが)この子をみとれるかということを考えてほしい」

「しいたけ」を包み込む笑顔と信頼。小林さんが奏でる澄んだ優しい音色は、救われた小さな命の尊さを多くの人に届けています。

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