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もはやスイーツ「甘酒焼き芋」開発の裏側 甘酒は「失敗」生かす 挑戦続ける老舗の糀店

特集は長野県岡谷市の糀店が売り出している焼き芋。その名も「甘酒焼き芋」。みそや甘酒に続き、なぜ老舗が焼き芋を手掛けるようになったのか。理由を探ると失敗にもめげず挑戦を続ける店の姿勢が垣間見えた。

蜜がにじみ出て光沢さえ出ている焼き芋。中はしっとり…。

子ども:
「あまい」

販売しているのは、岡谷市の若宮糀屋。

明治19年創業の老舗で糀(こうじ)の他、みそや甘酒をつくり販売している。

なぜ糀店で焼き芋なのか?

使用するサツマイモは「シルクスイート」。シルクの街・岡谷市が普及を進めている品種だ。

専用のオーブンで一度におよそ150本焼く。

低温でじっくりと焼き上げたら、いったん取り出す。

アツアツの焼き芋に塗っているのは、自社製の甘酒。

たっぷり二度塗りしたら再びオーブンへ。

甘酒に焦げ目がつき、芋の中からも蜜がにじみ出る。

このままでも食べられるが、さらに一晩寝かせる。これが店自慢の「甘酒焼き芋」。(1本450円~量り売り)

店頭の他、オンラインショップでも扱っている。

子どもたちにも評判!

子ども:
「おいしい」

母親:
「普通の焼き芋よりもねっとりしていて、すごく甘い。甘酒という体に良いもので、かつ、お芋なのでおやつには最適だと思う」

記者も…。

(記者リポート)
「お!しっとり、甘い!甘酒の風味は程よく残っているんですが、サツマイモ本来の甘み、香りを邪魔することなく、さらに引き立てている感じです」

甘酒を塗って焼くという大胆な発想。

それは4代目店主の妻・慶子さん(43)が聞いた、常連客のある一言がきっかけになったという。

若宮糀屋・花岡慶子さん:
「客から『生のサツマイモを甘酒に漬けて焼くとおいしい』という声をいただいて」

客の声をヒントに当初、生のサツマイモを甘酒に漬けて焼いてみたものの、実が硬くなり失敗。試行錯誤の末、現在の二度塗りにたどり着き2022年1月から売り出している。

若宮糀屋・花岡慶子さん:
「寝かせるともっと甘酒のうま味、甘みが浸透して完全なスイーツになります」

実は芋を甘くする甘酒にも「試行錯誤」があった。

4代目の花岡拡和さん(50)。みそや甘酒のもととなる糀をつくる様子を見せてもらった。

米に糀菌をつけ、床槽という入れ物で発酵させる。発酵が進むと熱を発するため、熱が均等になるよう時折、手でほぐしながら3日かけて糀をつくる。

この温度管理が良しあしを左右するが…。

若宮糀屋・花岡拡和さん:
「温度管理がすごく重要になってくるが、先代が間違って温度設定してしまって…」

10年ほど前のある日、先代が糀をつくっていたところ、温度が上がりすぎ、糀が「焼けた」状態になってしまった。

通常と比べると違いは一目瞭然。糀は黄色くなりダマもできている。しかし…。

若宮糀屋・花岡拡和さん:
「失敗したときは、私も怒ったが、とりあえず捨てるのはもったいないから、(食べたら)おいしいし」

若宮糀屋・花岡拡和さん:
「ぜひ食べてみてください」

「焼けた」糀を試食…。

(記者リポート)
「甘い!たしかに栗のような風味がして、これはこれでおやつとして」

若宮糀屋・花岡拡和さん:
「子どものおやつとして食べられるくらい優しい甘さです」

若宮糀屋・花岡拡和さん:
「私は職人という考えよりも研究・開発の考え方なので、どのくらいまでの味になるか試してみたくて」

甘くなった理由は定かではないが、花岡さんは焼けた糀の飛び切りの甘さを生かした甘酒をつくろうと試行錯誤を重ねる。

そして完成したのが、この甘酒専用の糀だ。

おかゆに入れてかくはんすると、糀から出た酵素が米のでんぷんを糖に変える。さらに発酵させると甘酒の完成だ。

一般的な甘酒の糖度は20度ほどとされているが、若宮糀屋の甘酒はなんと35度以上。失敗が生んだ成功ともいえる。

みそや日本酒など「発酵食品づくり」が盛んな信州。

しかし、ライフスタイルが変化し、全盛期40店ほどあった岡谷市内のみそ蔵や糀店は10分の1ほどまで減少。ここ数年はコロナ禍という試練もあった。

若宮糀屋・花岡拡和さん:
「継承していく人がなかなかいなくて、小規模でやってると、どうしても周りの人だけが買いにくるという状況になってしまう」

そうした厳しい状況の中、若宮糀屋は2020年、コロナ禍で長くなったおうち時間に「みそづくりにチャレンジしては」と手づくりキットを売り出した。

そして2022年、甘酒焼き芋を販売。4月には店舗の前に甘酒焼き芋の自動販売機も設置する予定だ。

若宮糀屋・花岡慶子さん:
「私たちを知ってもらう一つのきっかけになればいいと思って。そんなチャレンジをする老舗の糀屋って、一体何なんだろうと思ってもらう入り口になれば」

焼き芋で新たな客層の獲得に乗り出した4代目夫婦。

老舗のチャレンジが続く。
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