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一緒に再生を…福島・双葉町に「工房」 原発事故12年 国内屈指のシャツメーカーが進出

東日本大震災から3月11日で12年。特集は被災地に進出する信州の企業。千曲市のシャツメーカー「フレックスジャパン」が、この夏、福島県双葉町に工房をオープンさせる。福島第一原発が立地し去年、中心部の避難指示が解除されたばかりの町への進出。理由を解くキーワードは「再生」。

福島県双葉町。事故を起こした福島第一原発がある。原発から直線で4キロほどの海沿いに広がる「復興産業拠点」。元々は水田地帯だったが、町が買い取って、企業誘致のために整備した。一部は既に操業中だ。

(記者リポート)
「双葉町が復興の先駆けと位置付けている場所です。すでに20社以上の進出が決まっていて、その中には信州の企業も含まれています」

フレックスジャパン・小山幹人さん:
「ここが『ひなた工房双葉』の建設現場になります」

進出するのは千曲市のシャツメーカー「フレックスジャパン」。2021年、町と協定を結び、2023年1月から工房の建設工事が始まっている。

フレックスジャパン・小山幹人さん:
「明るい未来が見える事業に、この双葉町の事業がつながっていますので、売り上げの柱になるような事業にしていきたい」

2011年3月11日。巨大地震と津波によって起きた原発事故。双葉町は、町全域が避難指示の対象になり、「全町避難」へ。住民は全国に散らばり、役場機能は埼玉県加須市へ移された。

発生から11年半が経った2022年8月30日、町中心部の避難指示が解除され、住民が住めるようになった。原発事故で被災した市町村の中でも最も遅い解除だった。

2月16―。

(記者リポート)
「双葉駅から数百メートルほど離れた場所です。この辺りも避難指示はすでに解除されているんですが、1階部分がぺしゃんこになってしまった建物など、手つかずのまま残されている建物が多くあります」

地域に残る震災・原発事故の爪痕。

その一方で双葉駅周辺では復興公営住宅や診療所ができ、役場も駅前に移転し業務を再開している。

2023年1月には、震災後初めての「だるま市」も開かれ、復興へ向けた歩みは着実に進んでいる。

双葉に戻った住民の一人、松浦トミ子さん(86)。

帰還した住民・松浦トミ子さん:
「自分が生まれたところに来て、お墓が近いところに来たから、それでいいと思って」

いわき市などで生活してきたが、避難指示の解除を受け戻った。自宅は、まだ帰還困難区域にあるため、公営住宅に入った。

帰還した住民・松浦トミ子さん:
「こんなもんだと思って落ち着いています」

帰還する住民はごく一部だ。2月末時点で、住んでいるのは住民や町職員などおよそ60人。避難先で新しい生活を築き、戻らないと決めている住民も多いようだ。

松浦さんの友達もほとんど戻っていない。

帰還した住民・松浦トミ子さん:
「こんなん(避難生活)やって十何年たつと。(家族に)若い人がいれば若い人の言うことを聞かなければいけないから…」

町が抱える厳しい現実。

そこに進出する狙い・理由を「フレックスジャパン」に尋ねた。

会社は1940年創業。
「軽井沢シャツ」などのブランドで知られ、国の「次代を担う繊維産業企業100選」にも選ばれた国内屈指のメーカーだ。

客の好みに応じて作る「オーダーシャツ」を得意とし、近年は襟やカフスなど傷んだ部分を交換する「リフォーム」にも力を入れている。

矢島隆生社長は双葉町進出の理由をこう話す。

フレックスジャパン・矢島隆生社長:
「やりたいことではあったけど、事業として成功が見込めない案件がありました。それを双葉町というロケーションを使わせてもらえれば、もっと素直に表現すると、利用させてもらえればやれるかもしれないと感じまして」

フレックスジャパンが双葉町でしたいこと、それは「再生」だ。

「ひなた工房双葉」では、シャツの製造・リフォームに加え、思い出の服をバッグや小物などに「リメーク」する「衣類の再生事業」を展開する。

フレックスジャパン・小山幹人さん:
「来るたびに変わっているので、生まれ変わっていっているんだなという実感はある」

プロジェクトを任されている小山幹人さん。町との調整やスタッフの採用にあたってきた。

フレックスジャパン・小山幹人さん:
「確定している内定者は2人とも県外からの移住組。その辺はわれわれも町に貢献できたかなと」

双葉町の担当者:
「(町営住宅は)戸建てとかも加わってくるので、情報は3月にお知らせさせていただければ」

フレックスジャパン・小山幹人さん:
「県外からも移住してもいいという希望の人もいるので、一人でも多く双葉町に住んで暮らしてもらう、そういうお手伝いができれば」

リメーク事業は2021年、本社工場でスタート。矢島社長はいずれ双葉町をメインに展開したいと話す。

フレックスジャパン・矢島隆生社長:
「(衣服の)思い出だけを別の形にリメークして再生できないかと。双葉町は東日本大震災、原発事故からの再生・復興の象徴と捉えられている町。再生の象徴の町から衣料品の再生事業をやれれば、皆さんに知ってもらう機会が増えるかなと」

誘致した町も、メッセージ性のある事業に「雇用の場」として以上の期待を持っている。

双葉町・伊沢史朗町長:
「元の街に戻すというのが本当の意味での復興なんでしょうけど、われわれはそうではなくて、町を新しくつくりましょうと取り組んでいる。資源の再利用をいち早くやろうとする考え方、それを双葉の地でやることに意義があると思う」

2022年と2023年の双葉町の成人式。フレックスジャパンは、郡山市の短大などと連携し、学校に残っていた紅白幕を巾着袋などにリメークして新成人に贈った。その時の様子を見て、矢島社長は改めて「再生」に可能性を感じた。

フレックスジャパン・矢島隆生社長:
「私自身が思っていたよりも、非常に喜んでいただけるものに。人の気持ちに直接つながっていくようなものを私は事業でやりたいと思ってて、それを双葉町との出会いがきっかけでスタートを決めた。私たちが事業をうまく立ち上げることができれば、結果として町のお役に立てると思っている」

「思い出の再生」を「町の再生」と重ねて―。

「ひなた工房双葉」は2023年6月に稼働する。

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