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80歳女性店主が揚げる“最後の山賊焼き” 多忙のクリスマス終え…峠の人気食堂閉店

特集は、山賊焼きが名物だった食堂の閉店。長野県塩尻市の善知鳥峠にあった食堂が12月25日、56年に渡る歴史に幕を下ろしました。80歳の女性店主が揚げる最後の「山賊焼き」と閉店を惜しむファンたちを取材しました。

12月21日、開店を待つ客の行列。ここは塩尻市の善知鳥峠(うとうとうげ)にある「小松食堂」です。寒い中、並んで待った客の「お目当て」は、大きな「山賊焼き」の定食や丼ぶりです。

店員:
「山賊定食です。はいどうぞ~、お待たせしました」

辰野町から:
「インパクトすごいよね」

市内から:
「一番うまいっす。安くてボリュームもすごいのでお腹いっぱいになる」

山賊焼きを求めてこれまでも多くの客が通ってきましたが、この日のにぎわいにはもう一つ、理由がありました。

松本市から:
「近々、最後ということなので、きょうは食べ納めで」

辰野町から:
「これで終わりになっちゃうのが残念ですね」

食堂は2022年の年末、56年の歴史に幕を下ろすことにしたのです。

あるじの小松和子さんは80歳。

小松食堂・小松和子さん(80):
「(閉店に迷いは?)ない、ないです。一気に駆け抜けた感じ。56年ってそんなに長いと思わない。なんか無我夢中だったね」

自身の体力・気力を考えての決断でした。

食堂の始まりは1966(昭和41)年。別の人が営んでいた峠の食堂を義理の母・芳子さんが譲り受け、和子さんを誘って営業を始めました。

小松食堂・小松和子さん(80):
「(前の食堂の)ご主人が『体調悪くてやめたいけど、ここやってくれないか』って言われたらしいんですよ。(芳子さんは)人にご飯作ってあげるのが好きだったみたいで、やりたいって」

国道沿いということで店はドライバーたちでにぎわい、やがて夫の勝美さんも会社を早期退職して店に入りました。

小松食堂・小松和子さん(80):
「まだ高速道が開く前だからね、トラックの運転手が多かったですね」

2001年に芳子さんが亡くなり、2015年には主に接客を担当してきた勝美さんが病気で働けなくなりました。既に70歳を超えていたこともあり、店を閉めようと思いましたが…

小松食堂・小松和子さん(80):
「『もったいないから、やれっ』て言われたんですよ。忙しくなれば姪っ子とかいろいろ手伝ってくれるもんで、何とか続けてこられた」

しかし…

小松食堂・小松和子さん(80):
「(今年に入って)体に負担がかかって、腰が痛かったり、お父さんそんなふうになってから、力仕事みんな自分がやらなきゃいけない。跡継ぎする人もいないし」

閉店を決めてもすることは普段通り。この日も和子さんは山賊焼きを仕込んでいました。山賊焼きは開店間もないころ、仕入れ先の精肉店から勧められ、メニューに加えたということです。

国産の鶏むね肉を漬け込むのは「特製ニンニクだれ」。リンゴや数種類の野菜が入っています。

小松食堂・小松和子さん(80):
「だんだん改良して、いまのタレにたどり着くまではね。ちゃんと、だしだけはとって入れてます、煮干しとか昆布とかかつお節で」

一晩、漬けこんだ鶏肉に片栗粉をまぶして…

小松食堂・小松和子さん(80):
「(どれくらいの時間揚げている?)勘だね、時間計ったことないし」

市内から:
「山賊焼きって、もも肉使うんですけど、ここのお肉はむね肉使っていて。むね肉なんですけど、ジューシーで油っこくない。ニンニクしょゆだれがすごくおいしいのでここばっかり来ています」

辰野町から:
「味にコクがあるというか、深みがあるというか。食べやすいですね」

こちらの男性は東京から駆け付けました。

東京から:
「長野に出張するようになってから初めて(山賊焼きを)ここで食べて。他のお店行ったりしたけど、ピカイチ。全然違って、めちゃくちゃおいしい、必ずここ来ちゃう。なくなるって聞いて、いてもたってもいられなくなって。すごく悲しいので、真剣に記憶しながら食べてます」

小松食堂・小松和子さん(80):
「問い合わせもあるんですよ、『味を教えてくれないか』って。だけど、いちいち計って作っていないから教えられないしね(笑)。もう勘だけだから、果たして同じ味が出せるか分からないですしね」

12月24日は1年で最も忙しい日。クリスマスと言えばローストチキンなどを食べるのが一般的ですが、この地域の定番は「山賊焼き」。「小松食堂」も長年、テイクアウトに応じてきました。今年は最後ということもあって、なんと200枚もの注文が入りました。

常連客:
「親父の代から50年くらいね」

小松食堂・小松和子さん(80):
「お父さんが来てくれていた、最初ね」

常連客:
「そうだよ、こんな子どもの頃からよく連れてこられたもん。さみしいね、ここの山賊焼きで大きくなったようなものなので。ここの山賊焼きが(クリスマスの)一番のごちそうでしたね。あとは小さいケーキと」

花を贈る客も…

市内から:
「長い間、頑張ってご苦労さまでした」

市内から:
「(花は)気持ちでね、長いお付き合いでしたから。急にこんな、閉店されるということで、なんかさみしい思いで、ちょっと涙もろくなったんですけどね」

午後6時、この日最後の客を見送る―。

小松食堂・小松和子さん(80):
「長い間、ありがとうございました」

小松食堂・小松和子さん(80):
「やり切った感じ。最後にみんな『おいしかった』とか、大勢来て、惜しまれてやめるなんて、一番いいなと思って。感謝しかないですね、お客さまに」

クリスマスの食卓のために山賊焼きを揚げ続けた小松和子さん。多くの人に味の記憶を残し、12月25日、静かに店を閉めました。
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