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どう変わる?部活動の「地域移行」 費用負担、指導者確保…課題は山積 2023年度から段階的に

これまで部活動は学校教育の一環でしたが、その主体を学校から地域の団体などに移す「地域移行」が2023年度から段階的に始まります。なぜ地域に移す必要があるのか、具体的にどう変わるのか、課題は何か…。先行実施しているモデル校を取材、専門家にも意見を聞きました。

11月3日の祝日。長野市の裾花中学校でサッカー部が練習に励んでいました。

SSUCコーチ・藤原宗吉さん:
「わざわざ、あけなくたっていいじゃん、シュートコース!」

熱心に指導する藤原宗吉さん(64)。一見、「顧問の先生」ですが…

SSUCコーチ・藤原宗吉さん:
「私は先生ではなく、SSUCというのを裾花中学校の中につくり、そこのサッカーのコーチをやっています」

藤原さんは会社を定年退職していて、今は地域のスポーツコミュニティ「SSUC(裾花スキルアップクラブ)」のコーチをしています。

つまり、この日の練習、厳密に言えば「部活動」ではなく「地域スポーツ」です。学校の部活動を地域のスポーツクラブなどに移す…。これが政府が打ち出した「地域移行」です。当面、運動部が対象で、提言は2023年度以降、手始めに休日の活動から地域移行を進める内容となっています。

県教育委員会事務局スポーツ課・北島隆英課長:
「地域でスポーツ環境の整備をして、地域が一体となって、学校も含めて、地域の人たちで子どもたちのスポーツ環境を確保していくのが大きな目指すところ」

背景には、学校教育が抱える2つの問題があります。中学生の数は第2次ベビーブームの後、減少の一途をたどり、今は40年前の半分程度。1校あたりの生徒数も大きく減っています。

部活動に詳しい名古屋大学大学院・内田良教授:
「少子化がいろんな地域で進んでいて、学校単位で部活が回らないという状況もある。特にチームで活動する場合には、子どもがそろわないとチームがつくれない」

そして、もう一つの問題は教員の働き方改革。国際調査によると、日本の中学校の教員の労働時間は週56時間。48の国と地域の中で最も長く、部活動などの課外活動に割く時間は平均の4倍近くになっています。

部活動に詳しい名古屋大学大学院・内田良教授:
「教員が土日を使って指導しているということは、労働上でも非常に良い状況ではない。まず土日は先生に休んでもらうということを含めて、土日の学校の部活動を地域に移行する流れ」

裾花中学校はモデル校として、2021年から一足先に地域移行を進めています。まず地域住民が指導者のSSUCを立ち上げ、現在、サッカー部や剣道部などが休日、SSUCの下で練習しています。

サッカー部の場合、平日は顧問の教員、休日はSSUCのコーチが指導。指導者が2人いて、問題はないのでしょうか。顧問の荒井裕教諭、実は「兼業届」を出して、休日はSSUCの「指導員」になっていて、藤原コーチと意思疎通を図っています。

裾花中サッカー部顧問・SSUCコーチ・荒井裕教諭:
「『きょうはこんな感じでいきたいと思います』とか、『今週のテーマはこういう形なので』というのをお互いに話すようにしたり」

SSUCコーチ・藤原宗吉さん:
「ここをこうすればうまくいく、こうしてはいけないとか、練習中に私が口を出している。先生が、子どもたちがどんな性格だとか、どんな子どもか分かっている」

「教員の働き方改革」にはなっていませんが、子どもたちのためを考えた経過措置と言えます。

順調にスタートしたように見える「地域移行」。しかし、藤原コーチは課題は多いと指摘します。

SSUCコーチ・藤原宗吉さん:
「用具とか遠征費とか、いろいろなお金をどうするのか、保険をどうするのか…。予算をどうするのかがめちゃくちゃこれから問題になってくる」

地域の指導者には行政の補助金から時給が支払われています。しかし、補助金が維持されるかは不透明。今後、報酬などの経費が生徒負担・家庭負担になって「習い事」と変わらなくなる可能性があります。

保護者:
「(費用の負担は)今はかかっていないのですが…いろんな家庭の事情があると思うので、負担にならない程度にやっていただければありがたいというのが正直なところ」

部活動に詳しい名古屋大学大学院・内田良教授:
「家計負担が高まってしまって地域部活に行ける家庭と、そうじゃない家庭が出てくることは望ましくない。そこをどういうふうに行政がサポートするのか、急ぎ検討しなくてはならない」

そしてもう一つ、根本的な課題があります。

部活動に詳しい名古屋大学大学院・内田良教授:
「とりわけ地方に行くと、まず『受け皿』がない。仮に予算が準備できたとしても、受け皿、指導者、それを支えてくれるスポーツ団体がないことで、地方にとっては本当に大きな課題に直面している状況」

中山間地などは人口が少なく、部員も指導者も確保が困難です。南牧村の南牧中学校も、単独での地域移行が難しい学校のひとつです。

南牧中学校・神屋忍校長:
「団体種目が南牧中学校だけで成立するのは、とても難しい。地域で専門的に教えてくださる方を、なかなか見つけるのが難しい状況」

県教育委員会事務局スポーツ課・北島隆英課長:
「一つの市町村で移行を考えるというより、エリア、広い範囲で広域的に隣の市町村と一緒になってやっていくということが、問題解決にもなるかなと思う」

南佐久郡では、6町村・4校での地域移行を検討中です。各校の生徒と進学予定の小学5、6年生にアンケートをしたところ、「4校で集まって部活動をすること」について「良い」と回答したのは6割に上りました。その一方で「不安だ」「わからない」という回答は4割に…。

南牧中学校・神屋忍校長:
「いろんな地域の方とか、他の学校の生徒とやってみたいという子どもたちが多いことがわかった。その反面、不安を持っているお子さんがいることも見えてきました。学校を越えて共有して解決していく必要があると感じました」

準備期間を経て、12月には4校の生徒が集まり地域の指導者と練習する初の「合同練習会」を開く予定です。

大きく変わろうとしている中学校の部活動。他にも「指導者の質の確保」「『勝利至上主義』の下の行き過ぎた指導への歯止め」などの課題もあります。内田教授は単に、活動の場を移すだけでなく、部活動は子どもの教育のためにあるという本質を見失わないようにすべきだと指摘します。

部活動に詳しい名古屋大学大学院・内田良教授:
「部活動は一体、誰のためにあるのか。言うまでもなく、子どもの教育のためにある。地域全体で子どものスポーツ活動を支えていく。部活をやって、本当に良い思い出になっていく、やってよかった、大人になってからも続けたいと、部活がその子どもの身になるように考えていかないといけない」

文化部についても同様に地域移行を進める提言が出されていますが、場所や指導者の確保が運動部より難しいこともあり進んでおらず、県内は聞き取りが行われている段階です。
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