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台風災害バネに…リンゴ農園が「ハードサイダー」製造 新たな収入の柱に 堤防決壊から3年

特集は台風災害をバネにした新たな挑戦です。長野市のリンゴ農園が発泡酒「ハードサイダー」をつくり、本格的に売り出そうとしています。きっかけは、3年前の台風災害。加工品にも力を入れ、経営基盤を強化します。

泡と音を立てながら注がれる、琥珀色の飲み物。リンゴを原料とした発泡酒「ハードサイダー」です。「シードル」はフランス流の呼び名で、アメリカでは「ハードサイダー」と呼ばれ、親しまれています。

つくったのは長野市赤沼のリンゴ農園「やまだい農園」4代目の西沢穂孝さん(41)と、有希子さん(41)の夫婦。

100年余り続く農園で酒を手掛けたのは、これが初めてです。

やまだい農園 4代目・西沢穂孝さん:
「醸造先のご支援もあって、本当においしいお酒ができた」

農園の新たな挑戦。きっかけは3年前にありました。

2019年10月、台風19号により千曲川の堤防が決壊。赤沼を含む長沼地区は、濁流にのみ込まれました。西沢さんの自宅や倉庫も2メートル以上浸水。10カ月も「2階暮らし」を余儀なくされました。

一帯はリンゴの産地で、西沢さんの畑も被災しました。大量の泥がたまった他、収穫目前だった「ふじ」が泥水につかり、50トンも廃棄しました。

やまだい農園 4代目・西沢穂孝さん:
「一年かけて育ててきたものが水につかって捨てなくちゃいけない状況になったので、すごく悲しくて…」

その後、ボランティアなどの力で畑は元に戻りました。

さらに、災害翌年には、被災地に思いを寄せてきたスピードスケートの小平奈緒選手がリンゴ狩りに訪れ、励ましてくれました。

やまだい農園 4代目・西沢穂孝さん:
「復興具合を見ながら、『1年後リンゴがなってよかったですね』と声かけていただいた」

災害からまもなく3年。

やまだい農園 4代目・西沢穂孝さん:
「全体的にはいいリンゴがとれている」

現在は、「秋映」などの収穫期を迎えています。

やまだい農園 4代目・西沢穂孝さん:
「(いろんな人に)協力してもらって、その思いで復興・復旧してきているので、皆さんに恩返しじゃないですけど、そういう思いも込めて収穫できて良かった」

これまで農園は年間80トンほどを生産。その大半が生食用として販売されてきました。

しかし、被災してから西沢さんの中では、「このままでいいのか」という思いが強くなっていきました。

やまだい農園 4代目・西沢穂孝さん:
「災害をきっかけに、経営的にもどうにかしなきゃいけないという思いがあって、より強じんになって、強い農業ということで進めていきたい」

災害や天候不順にも負けない経営。そこで、乗り出したのが「加工品の拡充」です。去年、国の補助金を活用し、倉庫内に加工施設を設けました。

妻・有希子さん:
「搾汁機なんですけど、ここに果実を入れて押しつぶしていくと、果汁とリンゴのかすに分けられる」

被災前も業者に委託してジャムやジュースを製造してきましたが、これからは自分たちで製造する形に切り替えたのです。

妻・有希子さん:
「被災を機に、何となくやらないといけないなとか、やりたいなと思っていたことが、より鮮明になったというか、やっていかないといけないなという気持ちに」

加工品の新たな柱に据えたのが「ハードサイダー」。夫婦はイベントで頼もしい業者と知り合いました。大町市にあるハードサイダーの醸造所「サノバスミス」です。去年のリンゴの果汁でこの夏、330ミリリットル入りの瓶で1000本を醸造してもらいました。

商品名は「風の予感」。クラフトビールのように個性を出そうと、信州らしい山菜の味が加えられました。

妻・有希子さん:
「『ジャパニーズハードサイダー』というコンセプトでフキノトウを入れた」

味は…。

(記者リポート)
「パンチがあります。リンゴの強い酸味の中に、ほのかにフキノトウの苦みも感じられてこの一本でいろんな味わいが楽しめます」

一般への販売は今月下旬以降の予定です。

やまだい農園 4代目・西沢穂孝さん:
「料理に合うというところも意識して作ったので、肉料理ですとかご飯を食べながら飲んでいただけたらうれしい」

農園では、今後の本格生産に向けた支援をクラウドファンディングで今月13日まで募っています。返礼品は商品や搾汁体験などのプランです。

災害をバネに、農園を力強く再生させようとしている西沢さん夫婦。いずれは加工施設を他の農家にも貸し出し、効果を地域にも波及させたい考えです。

やまだい農園 4代目・西沢穂孝さん:
「加工施設については、ぜひ地域の人にも使っていただいて、おのおの魅力ある商品を作っていただければ。(リンゴ栽培が)さらに100年、200年と続いていけるような仕組みづくりや環境づくり、僕らのタイミングでできることを精いっぱいやっていきたい」
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