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大げんか経て、父から娘へ 女性社長守る”100年”映画館 塩尻市の「東座」 自主上映でファン獲得

特集は父の思い出が詰まった映画館を守る女性です。創業100年を迎える長野県塩尻市の「東座」。厳しい経営環境の中、女性社長が、映画への情熱と愛で、父から譲り受けた映画館を守っています。

塩尻市の「東座」。9月17日、創業100年を迎えました。

9月10日―

土曜の朝7時、社長の合木こずえさん(63)が上映の準備を始めました。土曜の朝一番は自主上映会「フロムイースト」の時間。通常の興行と別に月に1本、合木さんが選んだ作品を上映します。

東座・合木こずえ社長:
「(フロムイーストを)35歳から始めて今63歳ですけど、その都度その都度、私の人生に影響を与えてくれる映画と出合っていますので、それを上映してきました」

「フロムイースト」は今年で27年目。コラムも書く映画通の合木さんが選ぶ作品ということもあり、ファンが定着しています。

10年以上通う常連:
「映画の魅力が詰まっている作品が多い。男性にない視点で教えてもらうところもありますし、そういうのがあると楽しみです」

今回の作品は香港映画「花椒の味」(2019年公開)。父が残した火鍋店をめぐる3姉妹の物語です。

東座・合木こずえ社長:
「9月17日で東座は100周年を迎えるんですけど、父から譲り受けて12年目になります。それで“受け継ぐもの”というテーマでこの作品を選んでみました」

東座を父から受け継いだ合木さん。節目に選んだ1本は、自身の境遇と重ね合わせた作品でした。

東座は大正11(1922)年の創業で当初は芝居小屋でした。戦後、映画の上映が始まり、やがて全盛期を迎えます。1960年、父親の茂夫さんが支配人から社長になりその後、今の建物を建設しました。

東座・合木こずえ社長:
「とにかく人が大勢いて、お客さまも多く入って下さって、にぎわっていましたね。映画館の中に入り浸っていたという感じの子ども時代でしたね」

当時、活躍していたフィルムの映写機が残されています。

東座・合木こずえ社長:
「子どもの時は映写室は入っちゃいけないっていう領域だったので、『ニューシネマパラダイス』のトト君みたいなわけにはいかず、もぐりこんで遊ぶということはできなかったですね。父の聖域でしたから。父がフィルムをかける手さばきがものすごく早くて、ここから眺めたり教えてもらっている時、かっこいいなって、自分の父ながら」

思い出の映写機。使わなくなった今も手放せません。

自然と映画好きになった合木さん。女優に憧れ、大学時代は演劇を学び、劇団に所属。その後、海外テレビ局の代理店などに勤め、映像の世界に身を置いてきました。ただ、胸の中にはいつも「東座」がありました。

東座・合木こずえ社長:
「女優になりたいとは思っていましたが、年を取ったら、たぶんここに戻ってきて父の跡を継ぐんだろうなということは分かっていました」

1990年代、大型の複合映画館いわゆる「シネコン」が各地にできると街の小さな映画館の経営は一層、厳しくなりました。

そこで、合木さんは差別化を図ろうと、父・茂夫さんに地方ではあまり上映されていなかった「単館系」と呼ばれる海外作品やアート系作品の上映を提案しました。

しかし…。

東座・合木こずえ社長:
「商売にはならない、ビジネスじゃない、お前の趣味の世界だけではとてもじゃないけどお父さんは支えられないから、やめてくれないかってはっきり言われて大げんかして、何日も口を聞かないとかいろいろありました」

合木さんは引き下がりませんでした。「ならば自分で使用料を払ってでもやる」と東京で仕事を続けながら自主上映会「フロムイースト」を始めたのです。

合木こずえさん(1997年取材):
「本当に秀作と言われるような、名作と言われるような映画を見たい人もたくさんいると思ったんです。素晴らしい感動を与えるようなものをコツコツと地道にやっていこうと」

当初は苦戦しましたが、次第にファンを獲得していきました。

東座・合木こずえ社長:
「帰りがけに『すてきな映画をありがとう。これが見たかったの』と、目を潤ませてお帰りになったり、そういうお客さまの反応を見ると、よかった、やってよかったって心から思ったんですね」

父・茂夫さんは…

東座・合木こずえ社長:
「私が報告して『これくらい入りました』と言うと笑顔を見せてくれるようになって、普段ほとんど笑わない人だったんですが、よかったなって言ってくれるんですね。父の笑顔が見たくて頑張りました」

2010年、茂夫さんは社長を合木さんに譲り翌年、この世を去りました(享年82)。

今はインターネットで映画が配信される時代。さらに追い打ちをかけるようにコロナ禍に入りました。厳しい経営環境を支えているのは熱心な映画ファンです。

こちらは中川村の中塚さん夫妻。20年以上、ほぼ毎週、車で1時間半かけて通っています。

20年以上通う・中塚みね子さん:
「社会問題とかいろんな問題を持った映画が多い。(東座の上映作品は)間違いなく面白いので、外せないなと思って毎回通っています」

20年以上通う・中塚和司さん:
「映画だからできる表現がある単館系の映画を、もっと多くの人が見られるといいかな」

出窓に飾られた絵。これまでに上映された映画をモチーフに常連客の女性がもう10年以上、新しい絵を描いては持ってきてくれています。

東座・合木こずえ社長:
「映画を真剣に見てくださっているというのと、東座を大事に思って下さるっていうのが伝わるので感激ひとしおです」

東座は家族経営です。妹のかなえさん(61)が支配人として働き、母・節さん(85)も毎日、足を運んで、二人の世話を焼いています。

母・節さん:
「ああ、今、父親がいてくれたらなって。夫がいたら、どんなに喜ぶだろう。今ね、元気だったら、黙ってニコニコしていると思います(笑)」

建物の老朽化や新たな客層の発掘など課題は尽きません。それでも合木さんは気分も新たに100年の節目を迎えようとしています。

東座・合木こずえ社長:
「(スクリーンで映画を見れば)いろんな発見があって、とってもワクワクして、感情の起伏が激しくなって、最終的にすごく豊かな気持ちになれると思うんです。人々の生きがいの一部になりたいですね。つらいことがあったときも、あそこに行けば元気になれるって皆さんが思ってくれる、心の隅においておいてくださる、そんな存在になりたいと思っています」
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