火災乗り越え...老舗旅館の"決意の新年" リピーターの励まし受けて再建決断 社長「長く愛される宿に」

大雪となった新年1月4日の湯田中温泉。
「いらっしゃいませ」
老舗旅館「よろづや」が多くの客を迎え入れていました。旅館内にある源泉かけ流しの「桃山風呂」は国の有形文化財。200年の歴史を誇る人気の旅館です。
よろづや女将・小野恵子さん:
「毎年スキーで正月を迎えられるんですか?」
宿泊客:
「いや初めてで、なかなか出かけられなかったので」
よろづや女将・小野恵子さん:
「コロナでそうですよね」
新型コロナの影響が落ち着いたこともあり、久しぶりににぎわいが戻りました。
宿泊客:
「みんな元気でよかった、乾杯!」
活気が戻った旅館に社長の小野誠さん(62)は...
よろづや・小野誠社長:
「去年、私が旅館をやって初めてこんなに暇な正月と思ったので、それに比べると今年は順調だなと」
社長の安どは去年の状況を思えばこそ...。旅館は新型コロナともう一つ、大きな苦難を抱えて新年を迎えたのです。
「よろづや」の離れ「松籟荘(しょうらいそう)」。戦前の建築で「桃山風呂」と並び国の文化財に指定されていました。客を迎え入れるだけでなく、湯田中のシンボルともなっていました。
しかし―
(記者リポート・2021年2月11日)
「湯田中温泉の中心部、建物が炎に包まれています」
2021年年2月、2階の厨房から出た火が建物に延焼。松籟荘は全焼しました。
変わり果てた地域のシンボル。よろづやは休館を余儀なくされました。
ただ、沈み込んでいたわけではありません。
よろづや女将・小野恵子さん(2021年4月):
「お抹茶は茶わんをいったん手のひらに受けて、ちょっと回してお出しした方が丁寧だと」
女将を中心に接客を見つめ直すなど、挽回を期して営業再開を目指しました。
よろづや・小野誠社長(2021年4月):
「もう一回、ゼロから再スタートだと思ってますので、一人でも多くのお客さまがファンとなるようにそんな迎え方をしたいと」
火災から約2カ月後に営業再開。
よろづや女将・小野恵子(2021年4月):
「2月に火事を起こしてしまいまして、きょうが再オープンの日だということで、そんなときにお越しいただきまして感謝を申し上げます」
火災から10カ月が経った年末。
よろづや・小野誠社長:
「こうやってみると意外と大きいでしょう?」
現在、「松籟荘」の跡地はコンクリートの基礎部分が残るだけとなっています。
自分の代で焼失させてしまった大事な建物。小野社長は、営業再開時には「松籟荘」の再建を決意していました。
よろづや・小野誠社長:
「祖父が力を入れて造って、父親もリニューアルをして、私の代になってからも何度も手を入れやってきた館だったので、それを失ってしまったというのはご先祖様に申し訳ない。あとはコアなリピーターの方が大勢いて、たくさん励ましのお手紙をいただきまして、ぜひ再建してほしいとそういう声に押された」
新しい「松籟荘」は、別館を取り壊して建て替えることにしています。別館に見切りをつけたのは、新型コロナの影響でインバウンドの客が見込めないことも背景にあります。
よろづや・小野誠社長:
「スタッフにとっては思い入れがあるんでしょうけど、今度また全部きれいな新しい館ができると思うので、またそこで新たな歴史をつくってもらえれば」
新しい「松籟荘」も木造建築。かつての面影を残した外観になる予定で、2023年12月の完成を目指しています。
再起を誓って迎えた新年。この年末年始は予約が入りスタッフも忙しく動いていました。
スタッフ:
「今現在2棟なくなっている状態ですので、お客様の数は半分くらいになりますけど、その分きめの細かいおもてなしができればいいなと」
午後3時過ぎ―
よろづや女将・小野恵子さん:
「いらっしゃいませ。お疲れさまでございます」
チェックイン時間を迎えると続々と宿泊客が訪れます。
宿泊客:
「ここは前に来たことがあって、もう一回来ようかなと。前は松籟荘に泊まらしてもらったんですけど残念だなと。(再建したら)機会があったらぜひ来たい」
こちらは3世代で宿泊。孫たちの帰省に合わせて2年ぶりの家族旅行です。
祖父:
「元気な顔を見るだけでもうれしい」
孫:
「ごはんもおいしいし、お風呂もすごく大きくてびっくりして、いい旅館だなと」
よろづや・小野誠社長:
「ありがたい。年末年始はお客様が戻ってきたという実感はある」
新型コロナに火災と苦難の時を迎えた老舗旅館。シンボルの復活と旅館の再起を目指す1年が始まりました。
よろづや女将・小野恵子さん:
「新しいものができるということは希望の光ですので、気持ちはそちらの方にシフトをして、去年で厄をすべて落としたと言ってはなんですが、明るい年にしたいなと」
よろづや・小野誠社長:
「最大限のおもてなし、ソフト力をもっとつけて、よりハイクラスな宿に磨き上げていきたい。本物として長く愛される宿をつくっていきたいなと」