なぜ、防げなかったのか...犬469匹虐待 元従業員が語る実態 行政の責任は... 杉本彩さん根絶訴え

なぜ、防げなかったのか...犬469匹虐待 元従業員が語る実態 行政の責任は... 杉本彩さん根絶訴え
特集はあのニュースの今。長野県松本市の業者による犬の虐待事件です。多くの犬を衰弱させ、元社長の逮捕・起訴に至った今回の事件。なぜ防げなかったのか、元従業員や動物愛護団体を取材しました。

ミニチュアダックスフントの「幸(さち)」。虐待が明らかになった犬販売業者の施設から救い出され、保健所で保護した犬です。

動物愛護団体を通じて先月、里親の大堀さんのもとにやってきました。

里親になった大堀久美子さん:
「漢字で『幸せ』と書いて『幸』。これからは幸せな『犬生』を送ってもらいたい意味を込めてつけました」

保護された時、「幸」は妊娠していました。逮捕された業者の元社長は獣医の免許がないにも関わらず、自ら帝王切開をして子犬を取り上げていました。「幸」にも過去に受けたとみられる帝王切開の痕があったということです。

里親になった大堀久美子さん:
「信じられない。変な言い方すれば道具として扱いを受けた。これからはそういったことが起こらないので、今まで以上、何倍も、何十倍もかわいがって幸せに生きてもらいたい」

捜査員に抱えられて出てきた犬たち。毛が長く伸び、おびえた様子も伺えました。
2021年9月の家宅捜索は関係者の情報提供、告発に基づくもので保健所も立ち会いました。

市内2カ所の施設で飼育されていた犬は900匹余り。その後、劣悪な環境で飼育し虐待していたとして、元社長・百瀬耕二被告が逮捕・起訴されました。起訴状では469匹を衰弱させたとしています。

元社長・百瀬耕二被告:
「(犬に)ご飯をしっかりあげるということが精いっぱいで、手入れしてあげられなかったので、本当にかわいそうなことしちゃった」

逮捕前の11月に取材に応じた元社長は、2019年頃から人手が犬の数に追い付かず世話が不十分になっていたと認めました。

飼育基準を厳しくした2021年6月の法改正を前に従業員を確保しようと「犬を増やし、収益を上げたかった」という趣旨の説明もしました。

元社長・百瀬耕二被告:
「経営でお金回してかなきゃいけない、新しい犬舎建てなきゃいけないことで突き進んだ。なぜ逆に頭数を減らす方に自分の考えを持っていかなかったのか、今、考えれば(規模を)小さくすればと後悔している」

資金繰りのために繰り返された繁殖。ある関係者も、業者が毎週のように犬をオークションに出品していたと話します。

中で一体、何が起きていたのでしょうか。施設に5年ほど勤め、2年前に辞めたという元従業員は...

元従業員:
「ずさんというか納得のいかない掃除のやり方で。結局、トリミングはなし、当然、散歩はなし。中ゲージに、出産に関わらない子は一生そこに。(元社長は)『適当にやっとけばいいんだよ、えさと水やって全部済ましてくれ』と。少ない頭数の時は手が回ってたけど、1週間くらい食べられなかった子もいたと思う」

さらに...

元従業員:
「(帝王切開で)麻酔なしのお腹切る、足縛りつけて本人は麻酔か鎮痛剤を打ったと言うが、私が見てる前でそういうのはなかった」

元社長は「鎮痛剤を使った」と説明しましたが、帝王切開が頻繁に行われていたのは間違いなさそうです。

劣悪な環境下での飼育を証明する犬がいます。元従業員が施設から引き取った、メスの「ポメチワ」です。(ポメラニアンとチワワのミックス)

先天性の障害と運動不足で後ろ足が機能しません。

元従業員:
「生まれつきの奇形で、出産が基本になるから、歩けようが足がなかろうがお腹が使えるから出産を繰り返して、十分な栄養もらえないから年齢は分からないけど、早くに歯がなくなった」

多くの犬が悲惨な状態に置かれたのには「行政にも責任がある」と元従業員は訴えます。

元従業員:
「県の保健所には不信感を抱いている。当初からおかしいなと思って、あれで検査通るんですか(と聞くと)『改善の指示出してるので』で、いつも終わってました。近所の方も臭いとか音で保健所にいってた。『こういうふうに改善しました』という結果がない。もっと市民と同じ目線で聞いてほしい」

保健所業務は、2021年4月に松本市に移管されるまで県の管轄でした。

長野県食品・生活衛生課・吉田徹也課長:
「長年にわたって繰り返し同じ指導をしていて、結果として施設の環境の改善ができなかった。逮捕者も出たということで県としても重く受け止めている」

事態の深刻さから県は、関連業者への検査を強化する方針を示し、10月からはこれまでの対応の検証を始めています。

県の保健所は2020年度までの5年間に9回、立ち入り検査をしていました。しかし、担当者の認識の甘さや法改正前は飼育基準が具体的でなかったことから、指導が不十分だったとしています。

長野県食品・生活衛生課・吉田徹也課長:
「以前の基準からいくと、どうしてもあいまいな部分があって、違反だというところまで指摘できなかった。狭いところだけを見て『木を見て森を見ず』、一つ一つ細かいところだけ見て法違反に問えないという見方を繰り返す。総合的にしっかりと判断していれば法違反の状態であったのではないかな」

今回の事態を受けてペットビジネスそのものに警鐘を鳴らす団体があります。

動物環境・福祉協会Eva・杉本彩理事長:
「衝撃が大きすぎて言葉を失った。存在してはならない非人道的なビジネス。私たちが理解している以上の、本当にひどさなんだと改めて痛感した」

タレントの杉本彩さんが理事長を務める「動物環境・福祉協会Eva」。動物愛護の啓発や提言をしていて今回、松本の獣医師と連携し、業者を刑事告発しました。

杉本理事長はこうした問題を根絶するためにも、ペットビジネスのゆがみを是正すべきだと訴えます。

動物環境・福祉協会Eva・杉本彩理事長:
「命というものを大量生産、大量流通しているこのペットビジネスの構造が本当に無理があって、これは動物の痛み、苦しみ、犠牲なしには成立しないビジネス。最近はコロナで在宅で仕事をする人が増え、動物たちと触れ合って癒されたいと安易な気持ちから、多くの子犬、子猫が売れに売れているという状況がある。法改正、何かしら規制を設けて事業者を健全化していくこともあるけど、一番、大切なのはニーズをなくすこと。ニーズをなくすことで、こういったビジネスが縮小していく。それには大量生産、大量流通じゃない。しっかり少数の犬や猫を管理できる優良なブリーダーさんが繁殖させ、そこに消費者が直接行って学び、時間をかけて譲ってもらう、丁寧な流れが必要」

犬の健康を顧みず繁殖ビジネスに突き進んだ業者。劣悪な飼育環境を見過ごしてきた行政。

事件で明るみになった事実は業界や行政、ペットを飼う側にも課題を突き付けています。