命を削って作ったパン 45年の歴史に幕 「器具」は開業目指す男性へ パン一筋に生きた主の「志」継ぎ 

命を削って作ったパン 45年の歴史に幕 「器具」は開業目指す男性へ パン一筋に生きた主の「志」継ぎ 
特集は受け継がれるパン作りの思いです。病に倒れながらもパンを焼き続けた店主が亡くなり、去年2020年、長野市の人気店が閉店しました。その店の器具と志を継ぎ、長野県小川村で、店を開こうと、男性が奮闘しています。

焼きたてのパンの香りが広がります。こちらは小川村で8月、オープンする予定の「Bakery 24sekki」。店主の広田晃里さん(41)が試作を重ねています。

Bakery 24sekki・広田晃里さん:
「まだちょっと改善点はありますけど、おおむね順調な感じ」

岐阜県出身の広田さんは東京のパン店などで働いたのち、2018年、地域おこし協力隊員として小川村に移住。

パン教室などのイベントを開催する中、村で店を開くことを決意しました。

Bakery 24sekki・広田晃里さん:
「自分で商売始めたいという思いがあって(小川村に)来たんですけど、一番生活に身近なものって飲食かなと思って、パンだったらいろんな人が食べてくれるんじゃないかなって」

Bakery 24sekki・広田晃里さん:
「40年の歴史を感じる」

新しい厨房に不釣り合いなほど使い込まれたミキサー。これは、あるパン店から引き継いだものです。

長野市安茂里にあった「ルミエール」。

店主の横川清司さんは取材当時80歳でした。中学卒業後、上京して飲食店でパン作りを覚え、働きながら大学に通いましたが、忙しさから中退。パン職人の道に進みました。

ルミエール・横川清司さん(当時80):
「一番自分に忠実で、ごまかしの効かないものは何だって考えたら、こういうパンや洋菓子。パン屋になる、これしか俺にはないんだって自分に言い聞かせて、他に目が向かないように」

長野に戻って1975年に「ルミエール」を開き、出張販売も手掛け多くのファンを持つ店にしました。

仕込みを一人でこなし厨房で仮眠...。パン作りに誇りを持ってきました。

ルミエール・横川清司さん(当時80):
「食べた人が幸せになれる、これはすごい仕事だなと。だから俺はパン作りをやるんだと...」

横川さんは去年2020年、がんに倒れ入退院を繰り返しながらもパンを焼いてきましたが、10月、店の奥の部屋で息を引き取りました。(享年83歳)

横川さんの娘・妙さん(去年10月):
「命を削って作ったパンなんだということを(言っていた)。本当に『懸命』だったと思う、口癖のように言っていた」

主を失い、味の維持が難しくなったこともあり、店は閉じられることに...。

去年12月30日、ルミエール最後の営業日。多くのファンが別れを惜しみました。

ルミエールのファン:
「おいしいパン店だったので、すごく残念」
「毎朝、早くから準備して、お疲れ様でした」
「いつもおいしいパンを食べさせてもらって、いい思い出しかないです」

横川さんの娘・妙さん:
「お父さんのところに、ありがとうございます」

最終日、広田さんも店を訪れていました。金融機関の紹介で知り合った広田さんとルミエール。

店を開く広田さんを応援しようと、娘の妙さんたちはミキサーや生地を発酵させるときに使うホイロなどの器具を譲ることにしたのです。

45年の歴史に幕―。

ルミエールは無くなりますが、横川さんの器具は再び動き出します。

横川さんの娘・妙さん:
「もう一度、お父さんの機械が動くのは楽しみだし、うれしい。こんなにすごいお父さんの機械なら、いいパンが焼けると思いますと話してくれて、いいところに行けるなと思いますね」

3カ月後に運び出し...。

Bakery 24sekki・広田晃里さん(3月):
「営業中の風景を知っているので、寂しい気持ちになる。近隣の人はもっと寂しいと思うので、代わりにはなれないかもしれないけど、みんなに愛されるお店にはなりたい」

ルミエール・スタッフの傘木久恵さん(3月):
「(器具が)なくなると、本当に終わったんだなって。(ミキサーの中に)酵母が残っているので、ルミエールの味をつないでいってくれるかな。だからうれしいです、使っていただけるのは。ほんとにこれで...バイバイです」

広田さんは築100年以上の古民家を自ら改装し、開店準備を進めています。

今月、厨房が完成。試作ができるようになりました。生地をこねるのはルミエールのミキサーです。

Bakery 24sekki・広田晃里さん:
「長年大事に使ってこられたものなので、今でも現役で動きますし、ルミエールさんで使われた酵母がここに馴染んでいて、いい酵母が入ってよりおいしいパンになったらうれしい」

この日、作ったのは「食パン」と「くるみパン」。「素材本来の味を」と、使う小麦粉は国産100%。自身も畑で小麦を栽培しています。

Bakery 24sekki・広田晃里さん:
「(小麦を)いずれは自家製100%にしたいんですけど、シンプルで生地がおいしい、毎日食べたくなる、食べ飽きない普遍的なパンを作れたら」

友人に試食してもらう―。

試食した友人:
「ふわふわだ...いただきます。おいしい、めっちゃふわふわですね。モチモチです。めちゃくちゃ楽しみです。早くオープンしてください。『小川村のパン屋さん』という感じになってくれそうですね」

パン一筋に生きた主と人気店の歴史を受け継いで、新たな一歩を踏み出す広田さん。

オープンまで、あともう少しです。

Bakery 24sekki・広田晃里さん:
「ルミエールさんの代わりにはなれないですけど、ファンだった方がこちらに来られて、おいしいな、懐かしいなと思ってくれたらうれしいですし、うちも40年、人から愛されるようなお店になれたらいいな、これから頑張っていこうと」