【特集】亡き夫婦の味が今も...人気の「バタどら」 伝授された女性の思い 

【特集】亡き夫婦の味が今も...人気の「バタどら」 伝授された女性の思い 
特集は長野県大町市で受け継がれている「どらやき」です。店を畳んだ夫婦に再三、頼み込んで、その味を受け継いだ女性が自身の店を開きました。今は、亡き師匠夫婦に胸を張れる「繁盛店」となっています。

来店客:
「プレーン2つ、抹茶1つ」
「一通りほしいんだけど、一つずつ」

客がこぞって買い求めているのは...たっぷりのマーガリンに、「大納言」が入った「どらやき」。「バタどら」の愛称で親しまれています。

池田町から来た客:
「マーガリン味で中に小豆がそのまま入っていて、すごくおいしい」

ここは大町市のどらやき専門店「どらやきCona」。

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「結構かたい、いろいろ入っているので生地のしっとり感が違う」

主は浅賀奈津美さん(46)。家業の建設会社を手伝いながら、2年ほど前、自身の店を持ちました。浅賀さんにはこの「どらやき」を授けてくれた「師匠」がいます。

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「大町市でずっと長らくやっていた"村田屋さん"がお店をやめられるということで、大町市においしいどらやきがありますから、それをつないでいきたいと」

客も...。

大町市から:
「久しぶりに"村田屋さん"のどらやきを買っていこうかなと」

松川村から:
「『バタどら』のおじいちゃんとおばあちゃんがやっていた店で、そこの『バタどら』が懐かしくて」

大町で90年続いた村田屋菓子舗。多くのファンに惜しまれつつ3年前、店を閉じました。「バタどら」は、2代目の横沢章雄さんと妻・治代さんが30年ほど前から作り始めた「看板商品」でした。

長女の清水さゆりさんによると...。

横沢さん夫婦の長女・清水さゆりさん:
「そのころ和菓子が売れなくてケーキに押されてたので何とかしなきゃと考えたみたい。年を取ってからはできるだけしかやらないからと言っていたけど、父は職人なんでほしいと言われればがんばっちゃう感じで」

店を閉じたのは跡継ぎがおらず、夫婦が共に80歳を超えたからでした。その後、「バタどら」の作り方を教えてほしいと何人かが店を訪ねましたが、章雄さんは「そんな簡単なものではない」と全て断ったと言います。

幼いころはきょうだいで「バタどら」の取り合いをしたという浅賀さん。思い出の味を残したいと再三、章雄さんに頼み込みましたが、断られました。

ところが...。

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「何度かお電話して会っていただけないかと交渉をして、何度目かに『あすの朝伺います』と行ったら、シャッターが少し開いていたので、話を聞いていただけるんだと、そこからが始まり。お父さんは後ろで聞いているという感じでしたけど、お母さんに間に入ってもらって、女性同士なので世間話を交えながらいろいろ教えていただいて、(章雄さんにも)やるならという感じでちょこっとずつ教えてもらった」

妻・治代さんの助けもあり、熱意に押されて章雄さんは教える決心をしました。

横沢さん夫婦の長女・清水さゆりさん:
「浅賀さんが一番熱心に通ってくれてこの方ならと、父も内心はうれしかったと思う」

その後は弟子ができたのがうれしかったようで、章雄さんは材料から焼き方まで包み隠さず教えました。半年以上の修業を経て浅賀さんは、実家の会社の隣に店を構えます。

すると、章雄さんは「最初の客になりたい」と法事の引き菓子として「バタどら」を注文してくれました。

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「お金はいいですという感じだったが、『これが私たちの最初の気持ちだ』と、うれしかった」

小麦粉を振るいながら...。

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「きめが粗くなってしまうので。でも混ぜるのもあまり混ぜるとグルテンが出てよくない」

一部、機械化しましたが基本は章雄さんの教え通りです。

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「ちょっと、ぶつぶつが出てきたくらいで(裏返す)。タイマーもかけるが大体、目で見て」

「バタどら」の人気の秘密は、甘さが控えめでくどくないこと。実はマーガリンのほかに、村田屋時代からクリームチーズが隠し味として入っているそうです。師匠夫婦に敬意を表し、浅賀さんは「村田屋さんのどらやき」という名で販売しています。

(記者リポート)
「いただきます。マーガリンのしょっぱさがほんのりとした生地のはちみつの甘みと相まってとても食べやすいです。小豆もいいアクセントになっていますね、これは止まらないです」

他に抹茶味や季節限定のさくら味などもあり、1日でおよそ600個ほどが売れます。
かつての村田屋と同じように贈り物や引き菓子に選ぶ人が多いようです。

60個買う人も!

引き菓子に購入した人:
「60個買いました。食べたことはあってすごく懐かしいなと。しっとりしてておいしく食べやすい」

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「品物になります、5つになります。ありがとうございました」

この日はおよそ3時間で完売!すっかり人気店の主となった浅賀さんですが、実は果たせなかった約束がありました。

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「(章雄さんが)『最後どらやき焼きたいな』と言っていたので『ぜひお店ができたらお父さんに来てもらって、焼いていただいて大丈夫です」と話した」

妻の治代さんは浅賀さんの店がオープンする前に、章雄さんはオープンしてまもなく、相次いでこの世を去りました。

横沢さん夫婦の長女・清水さゆりさん:
「父の時には浅賀さんが『バタどら』を(供物として)あげていただいて。久しぶりに食べておいしかった。懐かしいねなんて言って。(父も)喜んでるんじゃないですかね、味を引き継いでいただいたから」

村田屋の味を守る浅賀さん。優しかった亡き夫婦の思い出を胸に、これからも「バタどら」を焼き続けます。

どらやきCona店主・浅賀奈津美さん:
「教えていただいたことを忠実に守りながら続けていきたい。笑った顔がお父さんもお母さんも素敵だったので、そういうふうに見守ってもらえたらいいなと」